岡山・蒜山高原で、個性豊かな店主とのおしゃべり旅。
お出かけが気持ちいい季節になってきた。もうすぐ母も誕生日を迎えることだし、自然の中で一緒にリフレッシュするのはどうかなと思い、岡山・蒜山高原への旅に誘ってみた。「かなり個性的なお店もあるみたいよ。リサーチはまかせて ! 」お互いの好みを熟知した母娘旅は、まとまるのが早い。
マスターとの会話も楽しい
温泉街のレトロかわいい喫茶店。
大阪から蒜山までは車で約2時間30分。気楽な2人旅なので疲れはないけれど、まずはほっこりできる場所がいいかなと思い、蒜山の手前にある湯原温泉郷に立ち寄ることにした。
温泉街の駐車場に車を停めて、お目当ての「喫茶サボテン」へ。お店に入ると、「いらっしゃいませ ! 」明るく張りのある声でマスターの進(しん)さんが迎えてくれた。
注文にてきぱきと対応すると、ひと息ついたマスターが私たちの近くに座り、母と話し込み始めた。
注文にてきぱきと対応すると、ひと息ついたマスターが私たちの近くに座り、母と話し込み始めた。
店名の由来を尋ねると、「店を始めた父はサボテンの鉢を1000鉢以上持っていて、〝サボテン博士〟と呼ばれていたんです。私も植物が好きでね」と教えてくれた。「約60年前に昭和天皇が湯原温泉にお泊りになったときには、父がドリップしたコーヒーを献上したんですよ。当時の写真がこれで…」とうれしそうにお店の歴史を語る。その他にも音楽や焼き物、歴史といった幅広い趣味の話と、話題は尽きることがない。
たくさんの植物に囲まれた店内に好みの音楽を流し、お気に入りのカップを集め、手が空けばお客さんとおしゃべり。「お客さんと話すのが生きがいなんですよ」という言葉通り、マスターの表情はいきいきと輝いている。「私たちも、もっといろんな出会いを楽しんじゃおう」と、マスターの姿に元気をもらって、店を出た。
蒜山に到着した後は、道の駅で買ったご当地レモンサワーをテラスに持ち出して軽く一杯。夕暮れ時の心地よい風に吹かれながら、いつもよりじっくり母と語り合えた。明日のプランを思い描いて期待を膨らませながら、1日目を終えた。
全国からバイヤーも訪れる
職人気質が漂うチーズ工房。
2日目は、ホテルで紹介してもらった「蒜山ラッテバンビーノチーズ工房」へ。
工房の奥から現れたオーナーの川合さんは、ものづくりに一切妥協しない職人…という風貌。気後れする私と違って、どんどん話しかける母。「初めて見るチーズがいっぱい ! 何種類あるんですか?全部おひとりで?」などと畳みかける。「牧場の方が先で、チーズは独学なんですよ。気の向いたものを作ってるだけだから、その時で違うね」。笑顔で答えながら、「まあ、食べてみて」と、川合さんは次々にチーズを試食させてくれる。
工房の奥から現れたオーナーの川合さんは、ものづくりに一切妥協しない職人…という風貌。気後れする私と違って、どんどん話しかける母。「初めて見るチーズがいっぱい ! 何種類あるんですか?全部おひとりで?」などと畳みかける。「牧場の方が先で、チーズは独学なんですよ。気の向いたものを作ってるだけだから、その時で違うね」。笑顔で答えながら、「まあ、食べてみて」と、川合さんは次々にチーズを試食させてくれる。
イタリア、フランス、アメリカなど各国のチーズがあり、初めて名前を聞いた珍しいものも。牧場の牛乳でつくられたチーズは、これまで食べたものとはひと味違ってフレッシュで濃厚 ! 「これが独学なんてすごい…」とつぶやいた私に、「そんなことないよ。やる気があればできる。」と川合さん。自分の道を究める人には信念があるな…と、背筋が伸びるような思いにもさせてくれる出会いだった。
大好きな森を一緒に楽しんで。
自然を愛する店主が営むカフェ&宿。
車を走らせていると、マップで気になる店名を発見。立ち寄ると、大きな杉の木に囲まれて建つ「もりくらす」は想像以上に素敵なロケーション ! 木が多く使われ、窓の外に緑が広がる店内も森に包まれているようで居心地がいい。
自然を愛する店主の植木さんは子どもの頃に遊んだこの森を生かして、「蒜山のメインエリアから一歩離れたこの場所で、ゆっくり過ごして欲しい」と、お店を始めたんだとか。
自然を愛する店主の植木さんは子どもの頃に遊んだこの森を生かして、「蒜山のメインエリアから一歩離れたこの場所で、ゆっくり過ごして欲しい」と、お店を始めたんだとか。
お店にいたおじいちゃんおばあちゃん夫婦に話しかけると「このお店のファンで。ここに来るのが毎週の楽しみ」と心地よさそうだ。店内を飾るレトロなインテリアや雑貨も素敵で、植木さんに伝えると「かわいいでしょ」とうれしそうな笑顔に。「もともと好きで集めていたものなんです。食器は、地元の人が〝押し入れから見つかった〟って、持ってきてくれたりもしますよ」。お店も人も愛されていることが伝わってくる。
森を散策したり、季節ごとの様子や宿のことも聞いたりしていたら、ずいぶん時間が経っていた。「長居しちゃって…」というと、「みなさん、ゆっくりしていきますよ。帰るときはすごく喜んでくれて。ハッピーな気持ちになってくれているんじゃないかな」。私と母も例にもれず、とても幸せな気分で店を出た。
「好きなことに没頭している人って、すごく幸せそう。どのお店の人も本当に素敵だったね」と旅の余韻に浸る母。私もまったく同感。多幸感あふれる人たちは、周りの人たちまで幸せにしてくれる。「そこに暮らす人を好きになると、まちも好きになるわよね。私もう、蒜山のファンになっちゃった」。いつもより明るい笑顔を見せた母と、またこの地を訪れようと心に決めた。