京都・みなみやましろで、貴重な紅花染めを体験する旅。
大人になるにつれ、日本の歴史や伝統文化に以前より興味が湧くようになってきた。趣味が合う先輩と話をしていると、「奈良の月ヶ瀬に日本で唯一の烏梅(うばい)職人さんがいて、紅花染め体験ができるらしいよ」と、新しい情報が。
「日本で唯一!? しかも、烏梅って何ですか?」。「気になるでしょ。一緒に行ってみない?」と盛り上がり、週末に出かけてみることにした。
「日本で唯一!? しかも、烏梅って何ですか?」。「気になるでしょ。一緒に行ってみない?」と盛り上がり、週末に出かけてみることにした。
茶畑の眺めとスイーツで、京都のお茶を堪能。
大阪から月ヶ瀬までは車で約2時間。日帰りで行ける距離だけど、体験のほかにも楽しみたいし、せっかくなので1泊2日の旅に。お目当ての紅花染め体験は5時間ほど必要と聞いたので2日目に予約を入れ、初日は京都のお茶文化を満喫することにした。
まずは和束(わづか)町の「dan dan cafë」へ。ランチは数量限定という口コミを見つけ、早めに向かうことに。風が心地よいテラス席に座ると、目の前に広がる一面の美しい茶畑に感動 ! 景色を堪能していると、畑の中に黒い部分があるのが気になったので、お店の人に尋ねてみた。「あれは日が当たらないように覆っておくとお茶が甘くなる、かぶせ茶ですよ」と教えてくれた。「かぶせ茶って、あんなふうに作るんだね」と話しながら、手づくりでやさしい味のランチを完食。
「この抹茶ジェラート、ふつうの2倍の抹茶を使ってるって書いてたよ ! 」。「どおりでまったりして濃厚… ! 」姉弟でお店を営んでいるお二人に味の感想を伝えると、「私の同級生が栽培した春摘みのお茶だけを使っています。ブレンドしていないので、その年ごとで味が違うかもしれませんね」と、弟さんが教えてくれた。「来年の抹茶も味わいに来たいね」と笑顔でお店を後にした。
何気ない風景に安らぐ、のんびりとした時間。
「暗くなるまでにホテルに着けばいいよね」と、車を走らせながら気になる場所に立ち寄ることに。南山城村へ入ると、「ロケ地になった橋があるみたい ! 」とドラマ好きの先輩がマップで見つけた「恋路橋」へ。「この景色、見たことあるかも ! 」「本当ですか?」とつっこみながらも、はしゃぐ先輩の姿を見て、こっちまでうれしくなる。
川べりに降りてみたりと無邪気な時間を楽しんだ後は、道の駅で買い物をしてホテルにチェックイン。
「京都のお茶を味わって、のどかな景色にも癒された、いい一日だったな」と思い返すうちに、心地よい寝具に包まれて、あっという間に眠りについた。
「京都のお茶を味わって、のどかな景色にも癒された、いい一日だったな」と思い返すうちに、心地よい寝具に包まれて、あっという間に眠りについた。
烏梅×紅花の美しい色を自分で染める喜び。
翌朝、道の駅のモーニング「茶粥御膳」で心も身体もあたたまり、いよいよ烏梅を使った紅花染め体験に出発。車中で早速、先輩からのレクチャーが。
そもそも烏梅とは、梅の実を黒く燻し乾燥させたもの。約1400年前に薬として日本に伝わって、その後は紅花染めや化粧用の口紅の媒染剤(染料の発色を助け、色を定着させる助剤)として使用されてきたんだとか。
「今から行く『梅古庵』は、700年前から烏梅作りを続けている最後の一軒らしいよ」と話を聞くうちに月ヶ瀬に到着。烏梅職人の中西さんが出迎えてくれた。
そもそも烏梅とは、梅の実を黒く燻し乾燥させたもの。約1400年前に薬として日本に伝わって、その後は紅花染めや化粧用の口紅の媒染剤(染料の発色を助け、色を定着させる助剤)として使用されてきたんだとか。
「今から行く『梅古庵』は、700年前から烏梅作りを続けている最後の一軒らしいよ」と話を聞くうちに月ヶ瀬に到着。烏梅職人の中西さんが出迎えてくれた。
「700年前当時の職人の環境を再現したいという思いがあり、工房には伝統的な建築様式を取り入れているんですよ」と中西さん。工房にも趣があって、体験への期待が高まる。
天然材料の紅花と灰汁、烏梅だけを使う染色体験。手間暇をかけて昔ながらの色彩を再現するのが醍醐味だ。
天然材料の紅花と灰汁、烏梅だけを使う染色体験。手間暇をかけて昔ながらの色彩を再現するのが醍醐味だ。
まずは、紅花に含まれるたった1%の赤色色素を染色に使うため、不要な黄色色素を洗い流す。冷たい水の中で紅花を揉むこと約90分間。「紅花栽培から染物まで体験するワークショップも行っているので、うちで栽培も始めています。今後はもっと増やそうと考えていますよ」。「烏梅を使った口紅も制作していて完成間近なんです。後で見てみますか?」。
烏梅や紅花について語る中西さんのお話が興味深く、手を動かしながら話も弾む和やかな時間に。「昔の人たちもこうして話しながら作業したのかな」と、ふと思いをはせてみる。
烏梅や紅花について語る中西さんのお話が興味深く、手を動かしながら話も弾む和やかな時間に。「昔の人たちもこうして話しながら作業したのかな」と、ふと思いをはせてみる。
昼食を終えると「裏手に蕗(ふき)が生えているので、よかったら採りに行きますか?」と中西さんに誘われ、思いがけず草の中に分け入って蕗を摘む時間に。「これが蕗なんだね。初めて見るかも」「私、こんなにたくさん採っちゃいました ! 」と、思わぬ自然とのふれあいも楽しい。
工房に戻り、灰汁や烏梅汁を加える工程を経て、いよいよ染色はクライマックスへ。「素材によって色が微妙に違うね」「天然の材料でこんなにきれいな色に染まるんだ」と、仕上がりに見とれる私たち。
「見たり聞いたりするだけでなく、実際に手を動かして体験する方が面白いですよね。手間暇はかかるけれど、昔ながらの良さがある日本の伝統を見直してもらえたらうれしいです」と中西さん。伝統を受け継ぎ、未来へ伝えようとされている職人さんの言葉には重みがある。自分の手で染めた美しい紅色にふれるたびに、きっとこの場所を思い出すはずだ。
「見たり聞いたりするだけでなく、実際に手を動かして体験する方が面白いですよね。手間暇はかかるけれど、昔ながらの良さがある日本の伝統を見直してもらえたらうれしいです」と中西さん。伝統を受け継ぎ、未来へ伝えようとされている職人さんの言葉には重みがある。自分の手で染めた美しい紅色にふれるたびに、きっとこの場所を思い出すはずだ。